最高裁判所第二小法廷 昭和22(れ)9 判決
主 文
本件各上告を棄却する。
理 由
被告人A、B弁護人高橋武夫上告趣意書
原判決は本件事実に付被告人A同Bに対し住居侵入、強盗傷人の罪に問擬して居
るが、住居侵入の点は異論なきも強盗傷人の点に付ては擬律錯誤の違法があると信
ずる何となれば被害者Cが八畳の間のガラス障子のガラスの破片で右眼瞼部から鼻
根部にかけて長さ約二糎、深さ筋組織に達する尖状裂傷等の傷害を受けたのは右被
告人両名の所為に因つて生じたものではないCがD某の発射した拳銃の音に驚き(
該拳銃の発射は偶々EがC家台所出入口の戸を開けて這入つて来たのに対しD某が
逮捕を免れるため同人に向けて発射したもの)自分等も射たれるかも分らぬと思ひ
慌てゝ八畳間の西側ガラス障子を自分の頭で自ら打ち割り後庭に飛出したのでそれ
に因つて招いたものであつて右被告人両名の所為によつて直接生じた傷ではない(
原判決が証拠に引用したCに対する予審訊問調書、被告人Fに対する予審第二回訊
問調書及び原審公判調書御参照)右被告人両名としては右傷害に付て故意が存しな
いのは勿論傷害の事実に付ての認識すらない。即ちCの該傷害は右被告人両名にと
つては全く意外の出来事である。刑法第二百四十条に依ると「強盗人を傷したると
きは云々」とあつて傷害を与ふる主体は強盗犯人それ自体であることは同条の文理
解釈上極めて明白であるされば原審が右被告人両名を強盗傷人罪として刑法第二百
四十条に問擬したのは擬律錯誤の違法があつて到底破毀を免れないと信ずると言う
のであるが、およそ刑法第二百四十条前段に規定する罪は所定の傷人の結果につき
行為者において認識がなくとも成立する。ところで、原判示事実における判示被害
者Cの判示傷害の結果は判示D某の発砲行為を原因として発生したるものなること、
原判決挙示の証拠によつて明かであるから、右D某の共犯者たる被告人等において
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たとへ所論の如く右判示傷害について毫も認識する所がなかつたとしても、被告人
等は前記法条所定の処罰に服さなければならない。それ故に、原判決が判示事実に
対し所論の如く前記法条を適用して被告人等を処断したとて何等異とすべき筋合で
はない。然らば原判決には擬律錯誤の違法ありとは言い得ないのであつて、論旨は
理由がない。
被告人G弁護人丸茂忍上告趣意書
第一点原判決は証拠によらずして事実を認定し審理不尽理由不備の違法あり破毀せ
られるものと信ずる。
(1) 原判決は「被告人(等)はD某及Hと共謀の上……」強盗傷人行為を為
したる旨認定し而して証拠を挙示しあれども「被告人が……共謀し……」たる証拠
は毫もあることなし即ち被告人は強盗行為をなしたることなきことは勿論強盗行為
を共謀したこともないのである。
(2) 被告人には強盗の意思は毫もなかつたのである。
第一審相被告人Iの供述によれば「……Dは家族が少いから大丈夫判らぬ様に盗
み出すことが出来る……」「AはCの家では金を壺の中に入れてゐる様なことを言
つてゐました」相被告人Aの供述によれば「Cの家では金は壷の中にでも入れてゐ
るのだろうと冗談半分に言つたことはあります」Aとしては冗談半分かも知れない
が被告人としてはAが有場所も知りその手引にて秘密の中に窃取する意思でC方に
赴いたのである。此の被告人が窃盗をする意思に過ぎなかつたことは右供述と被告
人の供述とを綜合して明瞭なところであるが被告人と強盗の意思があつた或は強盗
を共謀した或は亦強盗行為を為したる証拠は遂に之を発見するを得ないのである。
(3) 被告人は単純に窃盗の意思を以てC方に入つた処がそこで目撃したのは
D等の強盗行為である。被告人としては案に相違し忙然として何等一物を得ず逃げ
出したのである。此の被告人に対して「D等と共謀の……」上として強盗を認定し
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た原判決は証拠によらずして事実を認定し審理不尽理由不備の違法があり破毀ぜら
るべきものと信ずるのであると言うのであるが、
被告人が判示D某等と判示強盗を共謀したと言う判示事実は、原判決の挙示する
証拠によつて優にこれを証明することができるのであつて、この点につき原判決は
いささかも間然する所はない。原判決を目して或は審理不尽と云い、或は理由不備
と言うが如きは、原判決を誣ゆるの譏を免れない。論旨は理由がない。同第二点原
判決は法律の解釈適用を誤り擬律錯誤の違法があり破毀を免れないものと信ずる。
(1) 被告人Gは第一審相被告人F等の真意は知らず即ちC等に於ては強盗の
意思ありたるやも知れざるも少くとも被告人Gに於ては単純なる窃盗の意思にて被
害者宅に赴きたるものである。処が侵入して見れば自己の想ひと相違してそこにD
等によりて暴行脅迫行為為され居るのを発見し恐怖何等為す所を知らず一物をも得
ずして逃げたものである。
(2) 若し夫れ強盗罪が窃盗罪の加重犯であるならば被告人Gも窃盗に付いて
は共謀したのであるからD等が強盗罪乃至強盗傷人罪に問はれる以上被告人Gとし
ても当然その責を負うべきであらう。
而してフランス刑法に於ける様に加重罪と見る立法例もある訳であるが我が刑法
上は強盗罪は独立罪である。即ち窃盗罪は単純なる財物罪であるのに強盗罪は財物
罪と自由に対する罪との併合したものである。されば窃盗の共謀ありとしてもその
共謀者の一部に於て強盗の所為ありとするもそれを以て強盗の共謀ありとする事を
得ないものである。
然るに被告人Gに強盗の共犯を認めその責を負はしめた原判決は法律の解釈適用
を誤り擬律錯誤の違法あり破毀せらるべきものと信ずるのであると言うのであるが、
原判決は証拠により被告人が判示D某等と判示強盗を共謀した事実を認定した上、
判示事実に対し刑法二百四十条前段の規定を適用して被告人を処断したのであるか
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ら原判決には毫も擬律錯誤の違法あるを見ない。所論は、被告人に窃盗の意思しか
なかつたと言うが如き原判決に副わざる事実を根拠とする主張であるから、もとよ
り適法な上告の理由とは為し難い。論旨は理由がない。
同第三点原判決は法律の解釈適用を誤り擬律錯誤の違法があつて破毀せらるべきも
のと信ずる。
(1) 記録上明なる如く被告人は窃盗の意思を以てC方に侵入したるところD
等が為す暴行脅迫行為を目撃し恐怖何等為すところを知らず一物を得ずして逃げた
その後に於てDが偶々入つて来たEに向け発砲したのでCが窓より出でんとして受
けた傷を以て被告人を強盗傷人罪に問擬しているのである。
(2) 第一にDの発砲は被告人Gが既に窃盗の意思すら失つて逃げた後の行為
に迄責任ありとしたるは因果関係ある行為を所罰するものたる刑法の原則を無視す
るものである。
(3) 第二にDの発砲はEに向けられたものでありCが仮りに恐怖狼狽して窓
ガラスより逃避したとするも若し夫れCに向け発砲する程ならばそれより以前に発
砲せられるべきものであつてその時より何等特別な行動を取らないCに向けて発砲
すべきことは考へられないのであるからDの発砲とCの恐怖狼狽との間には相当因
果関係はないのであり従つて又Dの発砲とCが窓ガラスより出でんとして負傷した
こととは相当因果関係はないのであるされば仮りに被告人Gが強盗に付いて共犯者
として責を負ふべきとするも之に強盗傷人を以て問擬するのは法律の解釈適用を誤
つたものであつて破毀せらるべきものと信ずるのであると言うのであるが、
被告人が窃盗の意思であつたこと、並びに被告人が他の共犯者の強盗行為の実行中
に判示現場を逃げさつたこと等の事実は原判決の認定しない所であるから、かかる
事実を根拠とする所論はすべて採用することはできない。ところで、原判決の認定
するところによれば、被告人は判示D某と判示強盗を共謀した上判示現場に於て判
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示所為を分担実行したのであるから、判示被害者Cの蒙つた判示傷害が共犯者D某
の発砲行為を原因とするものなること判示証拠によつて明かなる以上、被告人にお
いても他の共犯者と共に刑法第二百四十条前段の処罰に服すべきこと、理のまさに
然る所であつて、原判決が判示事実に対し判示法条を適用して被告人を処断したの
は、まことに正当である。原判決には所論の如き擬律上違法の廉はない。論旨は理
由がない。
同第四点原判決は擬律錯誤の違法あり破毀を免れざるものと信ずる。
(1)被告人Gは単純なる窃盗の意思を以て行動したるものたることは記録上明
なる通りなりされば仮りに百歩を譲りてその行為がD等の強盗乃至強盗傷人行為の
一部を組成する結果を生じたるものとするも被告人Gに対しては刑法第三十八条第
二項が適用されて然るべきものなり然かるに事茲に出でず強盗傷人罪を以て問擬し
処罰したる原判決は破毀せられるべきものと信ずると言うのであるが、
既に説明した如く被告人は判示D某等と判示強盗を共謀したのであるから、他の共
犯者の加えた暴行の結果判示被害者Cに判示傷害を負わせた以上、被告人において
も強盗傷人罪の刑責を免れることはできないのであつて、もとより刑法第三十八条
第二項の規定を適用すべき余地はない。論旨は理由がない。
以上の理由により、刑事訴訟法第四百四十六条に則つて主文の如く判決する。
この判決は裁判官の全員一致の意見によるものである。
検察官宮本増蔵関与。
昭和二十二年十二月三日
最高裁判所第二小法廷
裁判長裁判官 塚 崎 直 義
裁判官 霜 山 精 一
裁判官 栗 山 茂
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裁判官 小 谷 勝 重
裁判官 藤 田 八 郎
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